ジンギスカン(成吉思汗)は、マトン(成羊肉)やラム(仔羊肉)を用いた羊肉の焼肉料理。北海道の郷土料理であり、北海道遺産の一つである。
中心が凸型になっているジンギスカン鍋(後述)を熱して羊肉と野菜を焼き、羊肉から出る肉汁を用いて野菜を調理しながら食す料理である。使用する肉(後述)は、調味液漬け込み肉の「味付け肉」、冷蔵(チルド)肉の「生肉」、冷凍肉の「ロール肉」がある。
現在は、日本各地で食べられている。特に北海道の料理として知られ、2004年10月22日には北海道遺産の一つに、2007年12月18日には農林水産省の主催で選定された農山漁村の郷土料理百選で石狩鍋やちゃんちゃん焼きと共に、北海道を代表する郷土料理として選出されている。
起源については俗説で「かつてモンゴル帝国を率いたジンギスカン(チンギス・カン)が遠征の陣中で兵士のために作らせた」と説明される場合もあるが、実際にはモンゴル国の料理とはかけ離れており、日本発祥の料理であると言われている。ジンギスカンという料理の命名自体は、源義経が北海道を経由してモンゴルに渡ってジンギスカンとなったという伝説(義経=ジンギスカン説)から想起したものであるとも言われている。
日本では1918年(大正7年)に軍隊、警察、鉄道員用制服の素材となる羊毛自給をめざす「緬羊百万頭計画」が立案された。その早期実現のために羊 毛のみならず羊肉をも消費させることで、農家の収入増加と、飼育頭数増加が企図され、その流れの中からジンギスカンが出現したものと考えられている。当時の日本人には羊肉を食べる習慣がほとんどなく、日本で受け入れられる羊肉料理を開発する必要に迫られ、農商務省は東京女子高等師範学校(お茶の水女子大学の前身)に料理研究を委託している。
一説には、ジンギスカンの起源は日本軍の旧満州(現中国)への進出に関係しているとされ、中国料理のコウヤンロウに影響を受けたという説もある。ジンギスカンという料理の名前の由来については、東北帝国大学農科大学(北海道大学の前身)出身で、満洲国建国に深くかかわった駒井徳三が、1912年(大正元年)から9年間の南満州鉄道社員時代に命名したものであるとする説があり、この説は駒井徳三の娘の満洲野(ますの)が1963年(昭和38年)に発表したエッセイ「父とジンギスカン鍋」が根拠となっている。
最初のジンギスカン専門店は1936年(昭和11年)に東京都杉並区に開かれた「成吉思(じんぎす)荘」とされる。他にも、山形県蔵王温泉や岩手県遠野市等がそれぞれ、上記の東京や北海道のものとは発祥を異にする、独自のものとしてのジンギスカン鍋の起源を主張している。
北海道での本格的な普及は第二次世界大戦後のことと言われている。
調理には専用の鍋であるジンギスカン鍋が用いられる。この鍋は、主に鉄製で、中央部分が兜のように盛り上がった独特の形状をしており、その表面には溝が刻まれている。これは盛り上がった中央部で羊肉を、低くなった外周部で野菜を焼くことによって、羊肉から染み出した肉汁が溝に沿って下へと滴り落ちて野菜の味付けとなることを意図した設計である。
なお、鉄板や網焼き、フライパンなどで代用する場合もある。
専用鍋には、主に2種類ある。上記の鉄・アルミ製で穴なしのものと、スリット状に穴が開けられているものがある。 穴なしのものは、味付け肉用(生でも兼用)でたれが落ちない構造であり、穴あきのものは、主に七輪・炭火焼きで行われる生肉用で余分な脂を落とす役割を持っている。 また、近年のジンギスカンブームにより、店舗オリジナルの鍋など、様々なものが製造される。
岩手県遠野市では、ジンギスカン鍋に専用の焼き台ジンギスカンバケツを用いて調理される。
東北地方のジンギスカンの定番品である。 メディアでの紹介もあり、現在は北海道でもアルミ製で鍋付きのものが販売されるようになった。北海道には今までこのような土台がなかったため、アウトドア製品の人気商品となり定番化しつつある。
前述のように、ジンギスカン鍋を用いる場合は凸状に盛り上がった中央部分で肉を焼き、低くなった外周部で野菜を焼く。水分が出るモヤシは高い部分に置く。
観光名所となっている店舗では、調理の際の油跳ね防止用のビニール製の専用エプロンが支給され、それを着用して食するのが一般的である。
ジンギスカンは、事前にたれに漬け込んだ「味付け」と焼いてからたれにつける「生(なま)」に大別される。ラム肉は味付け、生の両方で好まれるが、マトンはほとんどの場合が味付け肉として使用される。味付けジンギスカンは、肉をスライスし、たれに漬け込み、それを冷凍保存されて販売される。
「生」には、輸送・保管時に一度も冷凍されていない「冷蔵(チルド)品」とラム肉を丸めて冷凍した「ロール肉」がある。区別するため、チルド品を 「生ラム肉」「生マトン肉」と呼ぶ。ロール肉は、通常はマトン肉は扱われず、通常厚さ1.5-2ミリほどにスライスされて販売されるため「ラムスライス 肉」と呼ばれる。
ジンギスカン専門店や一部の焼肉店では生肉、ビール園では生肉と冷凍ロール肉の両方が使用され、客が選択する。なお、冷凍された肉を解凍すると繊維が壊れるため風味が落ちると言われるが、一方で壊れた繊維にたれが染み込むため味が濃厚になるという主張もある。
味付け肉の発祥は、マツオの松尾ジンギスカンである。現在様々なメーカーで製造されるほか、個人精肉店や焼肉店などでも独自に製造・提供される。調味液には、醤油ベースが主で、他に味噌ベース・塩ベー スなどがある。様々な香味野菜・果物を扱って製造され、それに肉が漬け込まれる。 使用する肉は、ラム肉・マトン肉のどちらでも使用される。特にマトン肉は、強い匂いがあるが味にコクがあるため匂いの臭み消し方法として利用される。ま た、一般家庭でも、市販のジンギスカンの付けだれを用いて肉を漬け込み、味付けジンギスカンとしても食される。
たれは味付け、生ともに醤油ベースと味噌ベースのものがあり、主流は、醤油ベースである。 たれには醤油、砂糖、リンゴ果汁、味噌、ショウガ、ニンニク、ごま油などが配合される。ジンギスカンの付けだれも焼肉のたれと同様に多種多様存在する。北海道ではベル食品とソラチの醤油ベースの製品が代表的である。また、青森県のたれメーカー上北農産加工に当初ジンギスカンのたれとして開発された「スタミナ源たれ」は、現在は、焼肉・野菜炒めなど多用途に使用される。
北海道では、道北(旭川市などの上川支庁地域や、滝川市などの空知支庁中北部)では「味付け」、道央(札幌市)、道南海岸部(函館市、室蘭市)、道東海岸部(釧路市) では「生肉」が主流だった。観光名所となっているビール園の主流も生ラムジンギスカンである。ただし、近年では双方の地域でどちらの食べ方も浸透が進んで おり、違和感無く受け入れられている。本州では地域別に分類することは難しい。関東では「生肉」が好まれるが、地方には独自のブランドをもった味付けジン ギスカンのメーカーが存在する。
北海道の他にも本州でも岩手県の県北沿岸部や遠野市、山形県蔵王、長野県飯伊地域、同県長野市信州新町、岡山県真庭市の蒜山高原、福島県石川郡平田村など、局地的に常食されている地域がある。また、千葉県のマザー牧場や神戸市の六甲山ホテルなどでは創業以来ジンギスカンが名物メニューとなっている。
これらの地域では花見をはじめとした宴会や集会の打ち上げなどで食べられることが多く、俗に「盆・暮れ・正月・花見にジンギスカン」とまで言われて いる。北海道ではアウトドアで行なわれる「焼肉」がすなわちジンギスカンを指す場合が多く、各種イベントには欠かすことができない。また、「ジンギスカン パーティー」(略して「ジンパ」)の語句も生まれ、マツオの企業CMのキャッチコピー(森崎博之)でも使用された。
関東では2005年頃にジンギスカンが急速に広まった。これは鳥インフルエンザと狂牛病の問題が注目され鳥肉、牛肉の需要が減少したこと、景気が上向きつつある中で低コストで開業できる(七輪に鍋を乗せれば開業できると揶揄される)ジンギスカン専門店を始める起業家が増えたこと、羊肉に多く含まれる「L(エル)-カルニチン」という物質が注目された健康需要などがその要因と言われている。2000年代後半になると外食でのジンギスカン専門店は減少したが、スーパーなどの小売店での羊肉の扱いは安定するようになった。